露光装置の導入を検討するとき、最後に問われるのはカタログの細かさではありません。「その装置に替えたら、不良が減るのか」という一点です。
この「良品がとれる割合」を歩留まり(ぶどまり)と呼びます。歩留まりは工場のあらゆる工程の影響を受けますが、なかでも露光工程は影響が大きい工程です。理由はシンプルで、露光はあとから直せない情報を決めてしまうからです。線の太さも、上下の層の位置関係も、露光した時点で確定します。ここで崩れていたら、後の工程をどれだけ追い込んでも品質は戻りません。
この記事では、歩留まりの考え方を押さえたうえで、露光工程が不良につながる道筋を「線の太さ・位置ずれ・ゴミ・環境」の4つに分けて見ていきます。
歩留まりとは、投入した数のうち良品になった割合のことです。ウェーハに回路を作り込む工程では、「ウェーハ1枚が無事に完成した割合」と「1枚から取れるチップのうち良品だった割合」をかけ合わせて考えます。
ここで知っておくと役に立つのが、チップが大きくなるほど歩留まりは急に落ちるという性質です。ウェーハの上には、避けられない欠陥(ゴミや傷)がぽつぽつと散らばっています。チップが大きいほど、その1個のなかに欠陥を抱え込む確率が上がります。網が大きいほどゴミも一緒にすくってしまうのと同じ関係です。
| 条件 | チップの大きさ | 1枚から取れる数 | 歩留まり | 良品数 |
|---|---|---|---|---|
| 基準 | 1cm² | 32個 | 67% | 21個 |
| チップを半分の大きさに | 0.5cm² | 76個 | 82% | 62個 |
| ウェーハを2倍の大きさに | 1cm² | 76個 | 67% | 51個 |
同じ欠陥の量でも、チップを半分の大きさにすると歩留まりは67%から82%に上がり、良品数は3倍近くになります。一方でウェーハを大きくしても歩留まり自体は変わりません(取れる数が増えるだけです)。大きなチップをあえて小さく分けて作り、あとで組み合わせる「チップレット」という手法が注目されるのは、この性質が理由のひとつです。
不良の原因を追うとき、まずこの2つを見分けます。
この見分けがつくと動き方が変わります。全ウェーハの同じ場所で落ちているならマスクや装置条件を疑い、ばらばらに出ているなら清浄度や搬送まわりを疑う、という切り分けです。
「露光で失敗する」といっても、失敗の仕方はひとつではありません。おおまかに4つに整理できます。
| 道筋 | 起きること | 製品への影響 |
|---|---|---|
| ①線の太さがそろわない | 規格から外れる、断面の形が崩れる | 回路が想定どおり動かない、つながる/切れる |
| ②上下の層がずれる | 層と層の位置が合わない | つなぎ目が接触不良になる |
| ③ゴミが入る | パターンが欠ける、そこだけピントがずれる | 断線・短絡で、そのチップは即不良 |
| ④環境が動く | 寸法がじわじわ変わる、ピントがずれる | 日によって・装置によって結果が違う |
ひとつずつ見ていきます。
露光装置には「どれだけ細い線を描けるか(解像度)」と「ピントが合っていると言える幅(焦点深度)」という2つの指標があります。
この2つは、残念ながら両立しません。レンズが光を取り込む角度を広げると細い線が描けるようになりますが、その分だけピントの余裕が削られます。しかも削られ方は均等ではありません。同じ光の色(波長)のままレンズ側で細さを稼ぐ場合、線を半分の太さにできるようにするとピントの余裕は4分の1になります。これが、細かい加工を追いかけるほど量産が難しくなる理由です。
では線の太さがそろわないと何が困るのか。トランジスタは線の太さで性能が決まるため、太さがばらつくと動き出す電圧がばらつきます。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の成果報告では、微細なトランジスタで電流のばらつきの7割以上が、この「動き出す電圧のばらつき」から来ていると分析されています。設計どおりの性能が出ないチップは、検査で落ちます。
もうひとつ知っておきたいのが、マスクの誤差はウェーハ上でそのまま等倍にはならず、拡大されて現れることです。半導体業界の技術ロードマップ(ITRS)によると、増幅の度合いは線状のパターンで1.4〜2.2倍、穴(コンタクトホール)では3〜4倍とされています。とくに穴のパターンでは、マスク側のわずかな誤差が3倍以上になって出てくるわけです。マスクの品質管理が効いてくる理由です。
半導体やMEMSは、パターンを何層も重ねて作ります。前の層と次の層がずれると、つなぎ目が合わずに不良になります。紙を何枚も重ねて、毎回きっちり同じ穴を通していくような作業です。このずれ量の管理が「重ね合わせ精度」です。
どこまでの精度が必要かは、作る線の細さに対する割合で見るとつかみやすくなります。半導体業界の技術ロードマップ(ITRS)の要求値を並べてみます。
| 年 | 作る線の細さ | 許されるずれ | 線の細さに対する割合 |
|---|---|---|---|
| 2005 | 80nm | 15nm | 約19% |
| 2010 | 45nm | 8nm | 約18% |
| 2013 | 32nm | 5.7nm | 約18% |
| 2020 | 14nm | 2.5nm | 約18% |
世代が変わっても、割合はずっと線の細さの約2割(およそ5分の1)でほぼ一定です。自社が必要な精度を見積もるときの目安になります。
装置選びで見落としやすいのが、「同じ装置の中でのずれ」と「装置をまたいだときのずれ」は別物だという点です。業界の用語でも、同一装置内の重ね合わせと、装置間の重ね合わせは別の指標として区別されています。複数台で同じ製品を流すなら、カタログの数字ではなく「装置間でどこまで合うか」を確認しておく必要があります。
さらに、装置は使っているうちに少しずつずれていきます。重ね合わせ精度を保つには定期的な調整が前提です。
露光装置に許されるゴミの量は、この技術ロードマップで具体的に決められています。300mmウェーハに換算すると、1枚あたり十数個しか許されないという水準です。「ウェーハ1枚のなかで、目に見えないゴミが十数個まで」と考えると、清浄度の要求の厳しさが実感できます。
ゴミの効き方には3つのパターンがあります。
マスクにゴミが付くと、その影が全チップの同じ場所に写ってしまいます。これを防ぐのがペリクルという薄い膜です。マスクの少し手前に膜を張っておくと、ゴミはその膜の上に付きます。膜の位置はピントから外れているので、ゴミの影はウェーハに写りません。
やや厄介なのが、マスクがかすんでいく「ヘイズ」と呼ばれる現象です。強い紫外線がマスク周辺のわずかな気体を反応させ、マスクの上に固まりが育ってしまいます。レジストから出てくるガスも原因のひとつです。
見落としやすいのが裏面です。シリコン以外の材料を使う半導体(化合物半導体)の量産現場では、ウェーハの裏にできた高さ1.2µmほどの小さな盛り上がりが原因で、表面のピントが乱れ、1%以上の歩留まり損失が出ていたことが特定されました。裏に1µm級の付着物があるだけで、表の露光が崩れるということです。
部屋側の管理基準は国際規格で決まっています。数字が小さいほどきれいな部屋です(単位は1立方メートルあたりの粒子数)。
| クラス | 0.1µm以上の粒子 | 0.5µm以上の粒子 | 昔の呼び方 |
|---|---|---|---|
| ISO 3 | 1,000個 | 35個 | クラス1 |
| ISO 4 | 10,000個 | 352個 | クラス10 |
| ISO 5 | 100,000個 | 3,520個 | クラス100 |
| ISO 6 | 1,000,000個 | 35,200個 | クラス1,000 |
露光工程がクリーンルームを必要とする理由は露光工程にクリーンルームが不可欠な理由で解説しています。
装置も材料も同じなのに結果が変わる、という現象の多くは環境が原因です。
露光装置は光を使って位置を測り、光を使ってパターンを写します。その光が通る空気の性質は、温度・気圧・湿度でわずかに変わります。産業技術総合研究所(産総研)の研究者による資料では、影響の大きさは温度1℃ぶんが最大で、次に気圧、湿度は比較的小さいと整理されています。
ただし実際の変動幅を考えると印象が変わります。気圧は天気によって日々十数hPa(ヘクトパスカル。天気予報で使う気圧の単位)動くため、係数が小さくても寄与は大きくなりがちです。装置側で環境の補正をかけていなければ、天気の変化が寸法のばらつきとして現れます。ちなみに、この「空気の性質」を逆に利用して細かい線を描く技術が液浸露光です(液浸露光とは?)。
床のわずかな揺れも問題になります。精密機器の設置環境には「VC」と呼ばれる段階分けの基準があり、半導体露光装置は精密計測装置よりさらに厳しい段階(VC-C/振動の速さ12.5µm/s以下)が目安とされています。とくに人が感じないほどゆっくりした揺れが、装置の安定性を脅かす主な要因です。
露光したあと、レジストは加熱されます。この加熱の温度が1℃違うだけで、仕上がりの線の太さが数nm変わることも珍しくありません。だから加熱プレートは0.1℃以下の精度で温度をそろえます。
さらに厄介なのが空気中のわずかな汚れです。アンモニアなどの物質は、露光でできた化学反応のもとを打ち消してしまい、パターンの形を崩します。許される濃度は10億分の1というレベルで、専用のフィルタで取り除いて監視するのが標準です。露光してから現像までの待ち時間を管理するのも同じ理由です。
当てる光の量が振れれば、線の太さも振れます。水銀ランプは使うほど紫外線の通りが悪くなっていくため、光の量は時間とともに変化していきます。
そのためランプ交換のいらない構成は、光の量の変化と交換で止まる時間の両方を抑えられます。
ここまでの4つは、最後にひとつの考え方に集約されます。「うまくいく条件の範囲」がどれだけ広いか、です。ダーツの的にたとえると、的が大きければ手元が少し狂っても当たりますが、的が小さければわずかなブレで外れます。
露光の条件は、大きく2つのつまみで決まります。
この2つは、お互いの余裕を食い合います。光の量の余裕を広く取ろうとすればピントの余裕は狭くなり、その逆も同じです。つまりカタログのピント余裕の数字は、条件の書き方ひとつで変わります。
裏を返せば、歩留まりが安定しない工程は、装置が壊れているのではなく余裕が薄いだけということです。だからこそ、必要以上の細かさを求めるより、自社の要求寸法に対して余裕が残る構成を選ぶほうが歩留まりには効きます。
ばらつきをゼロにはできないので、実務では補正で抑え込みます。やり方は3つあります。
これらをまとめたものが、装置の自動補正と呼ばれる仕組みです。装置ごとのクセ、材料のばらつき、環境の変動をならして、狙った値に寄せていく役割を担います。要求される精度は世代とともに厳しくなり、いまでは狙いに対して0.3nm(髪の毛の太さの30万分の1ほど)の範囲に収めることが求められる領域も出てきています。
加えて、日々の傾向を統計で監視すること、寸法や位置ずれを工程内で測ること、装置間の条件をそろえること、定期的に校正すること。地味ですが、これが歩留まり改善の実態です。
歩留まりの改善は、追加コストをほとんどかけずに利益を増やせる、数少ない手段です。大量生産の製品では、歩留まりを1%改善すると週あたり数百万ドル規模の価値になると指摘されています。
ここで押さえておきたいのが、次のシンプルな関係です。
実際に手に入る良品数=装置の処理能力 × 歩留まり
処理スピードを上げても歩留まりが落ちれば、良品は増えません。逆に装置が止まる時間が増えれば、1枚あたりの固定費が上がります。最先端の露光装置では、装置価格500億円・1時間220枚・稼働率78%という条件で、露光にかかる費用がウェーハ1枚あたり約7,700円、レジストなどの材料費を含めた総額で約19,100円という試算例があります。条件を攻めて生産量を稼ぐ判断は、この式の両側で確かめる必要があります。
とくに「残る余裕」を数字で見せてもらえるかが分かれ目です。同じ仕様の装置でも、実物で試させてくれるメーカーとカタログしか出てこないメーカーでは、導入後に歩留まりが立ち上がるまでの時間が変わります。
歩留まりは、ウェーハ上に散らばる欠陥とチップの大きさで大きく決まります。チップを半分にすると歩留まりが67%から82%へ上がるように、面積の影響は想像以上に大きいものです。
そのうえで露光工程は、①線の太さ、②上下の層のずれ、③ゴミ、④環境変動という4つの道筋で歩留まりに影響します。押さえておきたい目安は3つです。許される層のずれは線の細さの約2割。露光装置に許されるゴミは300mmウェーハ1枚あたり十数個。露光後の加熱温度が1℃違えば線の太さが数nm変わります。ウェーハの裏についた1.2µmの盛り上がりが1%以上の損失を生んだ例もあり、影響は装置本体の性能だけでは決まりません。
結局のところ、歩留まりを決めるのは「うまくいく条件の範囲」がどれだけ広いかです。ピントの余裕と光量の余裕はお互いを食い合うため、必要な細かさを正しく見極めて、自社の条件で余裕が残る装置を選ぶことが最も効果的な打ち手になります。そのうえで自動補正と定期校正で日々の変動を抑える——この二段構えが歩留まりを支えます。
関連ページ