2022年8月に制定したアメリカのCHIPS法と2023年7月に承認した欧州半導体法について、それぞれの役割や目的について調査しました。世界の状況や欧州半導体法とCHIPS法制定による今後の半導体市場についても紹介します。
半導体不足の問題を解決するために欧州内の製造活動を強化して、規模拡大とイノベーションを支援するために提案されました。
欧州では半導体産業がEU域外の供給に依存していることを問題視しており、依存関係を減らす働きを行っています。現在、台湾と東南アジアからの半導体製造と米国からの設計に頼っている状況。欧州での半導体の製造活動を強化することで、設計エコシステムの促進を目指します。
欧州半導体法(European Chips Act)は、2023年7月25日によってEU理事会が承認されました。半導体産業へ430億ユーロの投資をして、半導体の世界市場シェア率を2割増加することを目的としています。
2022年にアメリカで半導体市場の改善目的でCHIPS法が制定されました。アメリカの動きを受けて、EUも半導体産業へ注力。
欧州半導体法策定の背景には、半導体不足の問題が大きく関わっています。半導体はスマートフォンや自動車、スマート家電などさまざまな日常品に欠かせない存在です。需要が高まる中で世界的な半導体不足により、半導体生産の高い中国をはじめとするアジアの半導体供給も不安定な状況になりました。EU圏の半導体生産も低迷しています。半導体産業の縮小は、欧州の経済や地政学的な面にも影響。これらの半導体不足を改善するために、欧州半導体法が策定しました。
半導体産業の強化だけではなく、半導体の供給危機に備えることや特定地域への依存を減らすこと、EUと国家が投資の強調を図ることを目的としています。
半導体の研究戦略 | 設計プラットフォームの開発やコンピタンスセンターを設立するために、62億ユーロの公的資金を投入。 |
生産能力強化に向けた共同計画 | 半導体メーカーやサプライヤーの製造施設に対する官民投資を奨励することで供給の安定性を確保。 |
国際協力・連携に向けたフレームワーク | 加盟国と欧州委員会の連携を強化して、半導体の供給監視や危機対応行動に関する調整メカニズムを確立。 |
2021年度にアメリカ合衆国議会によって制定されました。国防関連の予算や政策、軍の運用に関する事項を定める法律である国防授権法を含み成立した法律をCHIPS法と言います。
アメリカではCHIPS法(CHIPS for America Act)と呼んでおり、2022年8月に半導体製造の強靭化を目的とした「CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)」として成立しました。アメリカは国内の半導体製造能力への強化に約527億ドルを補助すると発表。CHIPS法に必要な各項目の予算を集めて、高度な半導体製造技術に取り組んでいます。
1990年代ではアメリカ製の半導体シェア率は、世界で3割以上占めていました。しかし日本をはじめとしたアジア圏による半導体業界の進出により、アメリカ製のシェア率が大幅に減少。アジア圏内の半導体シェア率も大きく変動しました。2023年時点では中国をはじめとするアジア圏が大きな勢力を持つ状況です。
2020年にはCOVID-19による半導体不足に陥り、半導体を輸入に頼る状況への危機感が生まれました。アメリカ国内での半導体産業の回復が国防にもつながると判断して、制定を急いだという背景があります。
半導体のシェア率はアメリカより中国が上回っている状況です。CHIPS法はアメリカ国内の半導体企業向けに資金支援を受けるため「10年間は中国内で半導体の研究や開発の増強をしない」という条件を設けました。中国を意識した内容で、中国との権威主義の戦いと言えるでしょう。
中国側はアメリカのCHIPS法に対して国際貿易への影響があるとして反対の姿勢を見せており、半導体生産を巡って対立しています。
アメリカ国内ではCHIPS法の制定によりアメリカの半導体シェア率の回復を目指しています。COVID-19の流行やロシアとウクライナの対立などの影響を受けて、輸入に頼る半導体産業は供給不足になりました。
アメリカは輸入でなく半導体の生産拠点を自国に置くことに注力。半導体産業の活性化が進んで行く中で、CHIPS法を実行して国家の安全強化を目指しています。
半導体エコシステムの再構築 | 半導体産業の強化と育成を目的として、半導体製造や研究開発への投資を増やすことで半導体供給の安定化と競争力の向上。 |
半導体技術の推進 | 科学技術の研究と開発を促進して、アメリカの先端技術やイノベーションのリーダーシップを強化。 |
生成AIに必要とされる半導体が供給過剰になり、半導体市場は安定しない状況が続いていました。2024年からサプライチェーンが安定化することで、半導体市場の回復が期待されています。主要な半導体メーカーはグローバル市場の変化に対応して、在庫調整と削減を優先。CHIPS法や欧州半導体法の制定により、国内企業への投資が行われて半導体生産工場の新設も考えられます。中長期的に中国のような半導体シェア率の高い国から、別の国へ拠点を移す流れが今後増えていくでしょう。
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