露光装置を比較する際は、露光方式だけでなく、焼付波長による違いにも注目して下さい。ここでは、極端紫外線と呼ばれるEUV線と、EUV線の露光装置を扱っているオランダのASML社の特徴をご紹介します。
EUVとは、極端紫外線と呼ばれる非常に短い波長(13.5 nm)の光のことです。従来のArFエキシマレーザーによる技術では加工が難しい、7nmより微細な寸法の加工が可能です。露光技術は、微細化が追求され、g線、i線、KrFエキシマレーザー、ArF線へ大きな進化を遂げました。しかし、7ナノ以降の線幅に対応するためには、より効率的により細かい線幅の回路の描画が可能な露光装置が必要となり、開発されたのがEUV露光装置です。
光源波長が短いほど、微細なパターンが形成できる上、露光装置の価格も高い露光装置。EUV露光装置の価格は約200億円とされ、ロケットの打ち上げ費用よりはるかに高額と言われています。
EUV露光装置の開発には、2021年8月現在でオランダのASMLしか成功しておらず、同社が市場シェアを100%独占しています。ASMLは現在、露光装置の主流であるArF液浸シェアでも9割以上のシェアを占めており、次世代のEUV露光装置も合わせて市場規模の大きな分野で先行。装置価格も従来機より非常に高額なため、半導体用露光装置で一人勝ちの状態が続いています。
半導体業界においては、今後EUV露光装置の重要性がさらに増すと見られており、EUV露光装置の奪い合いが起こる可能性なども指摘されているようです。
極端紫外線露光装置に関して、国際マーケットの市場規模は予測期間中(2022~2030年)に複合年間成長率25.1%で発展し、2030年頃にはおよそ600億米ドルに到達すると見込まれています。
地域別に傾向分析を行うと、アジア太平洋地域は家庭用の電化製品に適している成長国が存在していることと、半導体市場が優位的に発展していることから、結果的に世界トップのシェアを獲得することに成功しました。一方、北米地域は政府による取り組みや民間企業の積極的な投資により、マーケット全体で今後も高い成長率を保っていくと考えられています。
マイクロエレクトロニクスデバイスの販売数が増加していくに伴って、世界市場が一層に発展すると予測されている点が重要です。
半導体露光装置で世界トップシェアを誇るオランダの半導体製造装置メーカーです。1984年にフィリップスとASMインターナショナルとの間の合弁会社として設立されました。
次世代露光技術であるEUV露光装置の開発に成功し、1台200億円とも言われる高価な精密機械を、世界中の半導体メーカーに提供。世界16ヶ国に60拠点を展開※しており、2001年に設立されたASMLジャパンでも、半導体産業に不可欠な露光装置の販売、据え付け、保守サポートを行っています。
※2021年8月時点、公式サイトより(https://www.asml.com/ja-jp/technology)
韓国の総合家電メーカーであるサムスンの2021年のEUV出荷数量は15台となっており、さらに韓国証券会社の調査によっては2022年には18台の確保になると想定されるなど成長傾向が続いています。
TSMC(台湾積体電路製造股份有限公司)は世界各国のカンパニーから半導体の受託製造を請け負っており、台湾だけでなく国際マーケットにおいても独自技術で地位を確立しました。
カメラやビデオ、プリンタといった様々な家電製品を製造・販売しているメーカーであり、2023年3月13日にはXR市場におけるデバイス製造を可能とした半導体露光装置も発売しました(2023年3月時点情報)。
カメラメーカーとして知られるニコンでは独自技術にもとづいた半導体の小型化と高機能化を追求しており、「液浸露光技術」や「マルチプルパターニング技術」といった技術を採用しています(2023年3月時点情報)。
印刷テクノロジーを中心に複数分野の事業を続けるトッパンでは、独自開発によってオリジナルの「EUVフォトマスク」を開発しており、パターン周辺部分の微細化を達成しました(2023年3月時点情報)。
これまでの半導体業界では、露光装置の光源の波長を短く変更し続けることで微細加工技術を進化させてきました。
1962年に登場したコンタクト露光方式や等倍投影露光に続き、1980年代前半にはg線露光、1990年代はじめごろにはi線露光が登場。1990年代後半になるとKrF線露光、2000年代末にはArF線露光が半導体の製造に投入されてきた歴史があります。
露光装置は、光源を変える度にウエハ上に塗布してパターンを写し取る感光材のフォトレジストやその他の加工装置を刷新しなくてはなりません。
そのため、光源の波長を短く変更するのは、レンズの大口径化などで解像度を上げられなくなった際の最終手段として行われてきました。
EUV露光は、短波長化という最終手段を繰り返した結果であり、技術的な難易度が高まったことにより行きついた技術です。
これまでの半導体露光技術では、回路パターンを描いたマスクに光を当て、レンズを通して縮小・微細化させて、ウエハ上にパターンを転写する方法が一般的でした。
しかし、波長が短くなると光は物質によって吸収され、光自体のエネルギーも高まる特性があります。この光の特性がEUV露光の実現を妨げる要因になっていました。
波長が極端に短いEUV光を従来のレンズ方式の露光装置で転写しようとすると、レンズや空気中の成分で吸収され、感光材のフォトレジストまで届かない問題が起こります。
EUV光の反射率には、68%という理論上の限界があります。EUV露光装置の照明光学系では10枚以上のミラーで反射させて露光しますが、従来のレンズ方式だとウエハに到達する光が光源出力の約1%に過ぎず、チップ製造技術としては不十分でした。
長時間かければ弱い光でも露光できるものの、量産が求められる製造としては不向きであり、補うためには光源の出力を高める必要があったのです。
半導体露光に適したEUV光を作るためには、高出力で安定的、長期にわたって利用できるEUV光でなくてはなりませんが、そのためにはキセノン(Xe)やスズ(Sn)をレーザー光などで照射して瞬間的に約30万ケルビンもの高温プラズマにする必要があります。
今ではスズ(Sn)の液滴にプレパルスレーザーとCO₂レーザーを照射する方式が採用され、出力と安定性が向上しています。
従来の露光技術では光を透過させるマスクを利用していましたが、EUV光の吸収を避けるには反射式のマスクが必要です。
また、従来のフォトレジストだとウエハ上に塗布した膜の厚みによってEUV光が吸収され、膜の底まで露光できない課題がありました。さらに、EUV光のエネルギーは極めて大きく、ミラーなどに当たると損傷して塵が発生し、マスクなどに付着してしまう問題もありました。
2000年代に入るまでは、半導体露光装置の市場を席巻していた日本の材料メーカーや半導体メーカーが、EUV露光装置を実用化させようとこぞって開発に取り組んでいました。
ところが、技術開発はしたものの実用化が難しく、開発の凍結や事業からの撤退が相次いで起こりました。
現在では、実用レベルのEUV露光装置の開発・供給は、オランダの半導体製造大手・ASML社だけが担っている状況です。
EUV露光装置の実用化にあたり、日本企業は多くの技術や部材の内製にこだわっていました。一方、ASMLは、装置の要素技術や部材の内製にはこだわらず、評価された要素技術や部材を活用した開発や運用に徹したことが一因として考えられます。
また、日本企業は特定の得意先との連携にこだわった閉鎖的な開発を続けていましたが、ASMLはさまざまな顧客や関連企業と連携して多様なアイディアを収集できる体制を構築しました。
クローズドな体制の日本に対し、オープンなASMLのほうが多くの支援先から知識と技術を蓄積できたことが勝敗を分けたと考えられます。
技術開発の進歩によって実用レベルには達しましたが、EUV露光装置の光源出力はまだ低く露光時間も長いため、生産性の低さが課題となっています。
現在、EUV露光装置を使ってチップを量産しているメーカーは、台湾のTSMC、韓国のサムスン、アメリカのIntelの3社のみ。
日本では、半導体産業の再興を図って2022年に設立されたラピダスが量産開始に向けて技術開発をする予定です。
そんな中、最先端の半導体チップを製造できない中国では、独自のEUV露光装置の開発が進められているといいます。
光源のさらなる高出力化と微細加工技術の開発が急がれる中で、今後もEUV露光装置における開発競争は国家レベルで激化していくと考えられます。
半導体のシリコン基板(ウエハ)などのセンサ・電⼦回路を集約する微⼩電気機械システム(MEMS)をはじめ、⾼精度の電⼦機器の製造⼯程で⽋かせない存在となっている露光装置。量産⽬的、研究開発⽬的に分けておすすめの露光装置を紹介します。