【製造品目別】
おすすめ露光装置3選
露光装置 PERFECT GUIDE » 今さら聞けない露光装置の基礎知識 » 半導体露光装置の発熱と冷却対策

半導体露光装置の発熱と冷却対策

半導体の微細加工が進む中、高精度と高スループットを両立するためには「発熱対策」が大きなカギになります。なぜなら、露光装置内部で生じる熱が微妙な温度変動を引き起こし、数ナノメートル単位の精度を要求されるパターン転写に影響するからです。一方で、発熱を抑える技術が装置自体に十分備わっていないと、工場側で大掛かりな冷却や熱排気の仕組みを導入せざるを得なくなり、トータルのコストが増加する恐れもあります。

そこで、本稿では、露光装置の代表的な発熱部位や冷却技術、そして最終的には「発熱の少ない露光装置を選ぶ」という観点が重要である点を整理してみます。

1.なぜ発熱が問題になるのか

高精度ゆえの温度安定要求

近年の露光装置は、1ナノメートル(nm)台の微細化を実現する必要があり、ステージやレンズなどが数℃でも変動すると、大きな位置ずれや光学特性の変化を招きます。発熱を原因とする温度上昇があると、光路の膨張・収縮や計測誤差につながり、露光品質や良品率が下がってしまいます。

冷却コストと排気負荷

装置内部を冷却するために大容量の冷却水配管や空冷ダクト、あるいは真空利用の冷却システムを導入する方法がありますが、装置側が大量の熱を出し続けると、それらの冷却設備への負担が大きくなります。工場の空調負荷も上がり、ランニングコストが上昇します。結果、工場全体の省エネにもマイナスとなり、発熱の少ない装置が選べるならそちらを優先すべきです。

2.主な発熱部位と冷却手法

光源ユニット(ランプ、レーザ)

エキシマランプや水銀ランプは高出力の光量を得るために大量の熱を放出します。これを光源周囲の断熱パネルや冷却水配管で制御する特許手法(たとえばJP2006-24843Aなど)がありますが、そもそもランプ自体が省エネ設計であれば、よりコンパクトな冷却系で済みます。

ステージとアクチュエータ

ウェハやレチクルを駆動するリニアモータや空気ばねの駆動部などが発熱します。VCM(ボイスコイルモータ)をはじめとした高速アクチュエータがあるほどステージの発熱は増えます。対策としてステージ鏡筒周辺を冷却ジャケットや断熱ジャケットで覆う方法(JP2004-63547Aなど)が提案されています。

コンプレッサ・真空ポンプ

空気ばね用に空気を圧縮するコンプレッサや、真空環境を維持する真空ポンプはモータやピストンの動作熱を発生し、吐出空気や周囲の温度を上昇させます。この問題は露光装置本体の外部にあるため見落とされがちですが、長時間運転でジワジワと熱が装置へ伝わり、空気ばねの内部温度を上げる報告もなされています。外部機械室を冷却せずに放置していると、空調コストが上がるばかりでなく、露光装置側へのマイナス影響も増えます。

3.冷却技術の事例

(1) 真空利用の冷却ジャケット

真空ポンプを利用し、ジャケット内部の気体を排気・導入して断熱膨張を繰り返す手法は、追加の冷却装置を増やすことなく熱を効率的に奪えるというメリットがあります。しかし、バルブや配管の制御が複雑で、安定動作のためには弁開閉のシーケンスに気を使う必要があります。

(2) 冷却水配管の二次利用

装置本体の冷却水回路を流用して、光源周辺や排気経路を冷やす技術です。排熱を下げた上で工場排気に回すことで、工場空調の負担を軽減できます。これにより別個の専用装置を置かずともコストを下げられる可能性があります。

(3) 排熱再利用

光源ランプの排熱を装置内部の粗加熱に転用し、電力ヒータ使用量を抑える手法が特許文献JP2006093428Aなどで取り上げられています。再利用には熱交換器が必要になり、排熱の温度と安定度をうまく制御する必要がありますが、省エネ効果が期待できます。

(4) 機械室の冷却

装置本体だけでなく、機械室にあるコンプレッサやポンプを冷却し、吐出空気・真空配管の温度を安定させる取り組みも重要です。コンプレッサ周辺に空調や冷却ファンを設置して、構造体への蓄熱を防ぐといった対策が求められます。

4.発熱の少ない装置こそ冷却設備コストも削減できる

ここまで紹介したように、露光装置が生み出す発熱への対策には多くの技術が存在します。しかし、そもそも装置自体が発熱を最小化する設計をしていれば、大がかりな冷却設備を新設・強化する必要が下がり、全体コストを削減しやすくなります。

同じ処理能力や分解能をもった装置であっても、内部機構の省エネ設計が進んだ装置を選べば、後付けの排熱システムや大規模な冷却インフラをそこまで拡充せずに済む可能性があります。

5.今後の展望と選定ポイント

  1. 外部機械室・配管まで含めた熱マネジメント
    露光装置内部の冷却技術をいくら高度化しても、コンプレッサや真空ポンプが置かれた周囲環境が高温化すれば、結局はトラブルの温床になります。機械室の空調も含めて、配管経路や断熱処理を考えることが欠かせません。
  2. 設備投資とランニングコスト
    露光装置に大きな発熱源があるほど、工場全体の空調・冷却設備を増強しなければなりません。設備投資だけでなく、運用時の電力やメンテナンスコストも増します。初期導入価格が多少高くても、発熱量を抑えた装置を選ぶほうがトータルコストを下げられるケースがあります。
  3. センサとAIの連携
    温度や流量センサを多数設置し、AIで最適な冷却流量やバルブ開閉を制御する考え方が広まりつつあります。製造現場のスマートファクトリー化が進展すれば、露光装置も含む一貫した熱マネジメントが可能になるでしょう。
  4. 機種選定時の着目点
    • 装置仕様書で「冷却水流量」や「排熱量」の記載をチェック
    • 光源やステージなど各部位の省エネ化の度合いを確認
    • 機械室設置を前提に、コンプレッサやポンプの排気温度をどれだけ低く保てるかをヒアリング
    • 必要なチラーやダクトの拡張コストまで含めたシミュレーション

まとめ

露光装置は、微細加工の中核を担う重要な装置でありながら、発熱対策を誤ると温度変動や不具合が発生し、高精度かつ安定的な生産を阻害しかねません。真空や冷却配管を活用して冷却する手法、光源排熱を再利用する手法、あるいは機械室にいるコンプレッサへの冷却導入など、既存の技術・特許を含めてさまざまな選択肢があります。

最終的には、発熱そのものが少ない露光装置を選ぶことが、冷却・熱排気設備コストの削減につながり、工場全体の省エネにも寄与します。単に露光能力・解像度だけでなく、「どうやって熱を出さずに済む設計がなされているか」「外部設備への熱負荷はどれほどか」を、装置選定時に確認することをおすすめします。そうすることで、ランニングコストの低減やメンテナンス負荷の軽減にもつながり、長期的に見て最適な製造環境を実現できるでしょう。