半導体における洗浄は、シリコンウエハに付着したチリ・ゴミ・汚れを取り除き、きれいにする工程です。半導体の製造プロセスは数百の工程に及びますが、前工程の多くを洗浄が占めています。半導体の製造において重要性が高く、プロセスごとに洗浄を実施。洗浄装置は主にパッチ式と枚葉式があり、一度に処理できるシリコンウエハの量が異なります。
洗浄工程が重要な理由は、半導体の表面をクリーンに保つ必要があるからです。半導体はシリコンウエハ上に積層させていき、製品を製造していきます。しかし、表面にゴミや汚れがあると適切に積層できません。設計や品質に影響するおそれも。そうしたリスクを防ぐために、プロセスごとにこまめな洗浄が実施されています。
半導体の洗浄工程では、主に以下の対象物を除去します。
空気中を浮遊しているナノメートルサイズのゴミやチリがパーティクルです。半導体は回路の微細化が進んでいます。それに伴って、微細なパーティクルが回路不良を引き起こすリスクが増えているのです。一方、ナノメートルサイズのパーティクルを除去するために超音波を利用している洗浄装置も中にはあります。
主にシリコンウエハを搬送する装置のほか、薬液に含まれる重金属が発生源です。搬送装置は、金属のパーティクルを抑えるよう設計されていますが、それでも装置の駆動部から発生してしまいます。シリコンウエハの表面に金属が付着すると、積層に異常を起こすおそれがあるため、丁寧な除去が必要です。
半導体の洗浄工程では、付着した有機物や空気を漂う細菌も洗浄します。有機物の発生源は、クリーンルームで使用される内装材や接着剤、排出される炭化水素化合物、シリコンウエハの搬送装置(FOSB)など。細菌はクリーンルームで大半を除去できますが、フィルタから侵入したものは洗浄装置で除去します。
油脂も洗浄の対象物です。主に人間の汗に含まれる脂分や皮脂などが、積層や設計に影響しないように洗浄装置で取り除きます。
シリコンウエハ上に形成されたシリコンの膜のことです。シリコンウエハを室温で放置した際、空気に触れることでシリコン結晶が酸素を取り込み、ナノメートルサイズの薄い酸化膜を形成する場合があります。これが自然酸化膜と呼ばれるものです。半導体の設計に影響を及ぼしてしまうことがあります。
自然酸化膜は絶縁体であり、再汚染を予防する役割を果たしています。しかし意図した構造をつくる妨げになるので、自然酸化膜も除去の対象です。
半導体の洗浄装置で使われる装置は、大きく分けてバッチ式と枚葉式があります。
薬液を満たした処理層にシリコンウエハを浸して対象物を除去する洗浄装置です。薬液ごとに処理層を分ける多槽式と、1つの処理層で薬液を入れ替えながら洗浄する単槽式があります。
バッチ式の洗浄装置は、一度に複数のシリコンウエハを洗浄可能です。単位時間あたりのスループットが高く、製造効率を向上させられます。
一方でバッチ式の洗浄装置は大きく、スペースを取ってしまうのがデメリットです。薬液や水も大量に消費するため、製造コストが膨らんでしまう可能性もあります。
バッチ式洗浄装置は、一列に並んだ複数の処理槽の上部を、ロボットが水平方向に移動する構造になっています。
ロボットがウエハをバッチごと搬送して、処理槽の上部から浸すのが基本的な構成ですが、小規模な生産や実験的な製造の場合では、手動で槽を浸すこともあります。ウエハの搬送には、ウエハキャリアと呼ばれる専用のかごを使う場合と使わないキャリアレスタイプがあります。
処理槽の材質で多く用いられるのは、特殊なフッ素樹脂や金属成分が含まれていない特殊な石英ガラスです。APM洗浄の場合、石英ガラスに金属成分が含まれていると、使っているうちに金属成分が溶け出し、製造に影響を与えてしまいます。そのため、極力金属成分が含まれない純度の高い石英ガラスが採用されます。
また、DHF溶液に含まれるフッ酸は、ガラスと反応してガラスを溶かす作用があります。そのため、DHF溶液にはフッ素樹脂の槽を使います。
複数のウエハを同時に処理できる能力を持っているのが、多槽バッチ式の洗浄装置です。処理能力は高い一方で、装置の場所を取ってしまう、大型化するために薬液や純水も大量に消費してしまうデメリットがあります。
ウエハキャリアを使用する多槽バッチ式洗浄装置では、ウエハキャリアごと処理槽に浸すため、槽も大きくなってしまいます。
そのため、現在ではキャリアレスタイプが主流となっていますが、搬送チャックが直接ウエハを掴むことになるため、搬送チャックも石英ガラスなどの特殊な材質にしなくてはなりません。
処理槽がひとつしかないバッチ式洗浄装置を、単槽バッチ式洗浄装置といいます。装置の床面積を小さくできるため、省スペースでの設置が可能ですが、薬液の供給や排液の配管が複雑化するため、装置のコストが高くなる点があります。
単槽バッチ式洗浄装置にはディップ式とスプレー式があり、「浸す」という意味を持つディップ式は処理槽に浸す方式、「吹き付ける」スプレー式は、薬液をそれぞれのウエハに吹き付けて洗浄を行います。
テーブルに乗せたシリコンウエハを回転させ、薬液を塗布しながら洗浄する装置です。スプレーごとに薬液を切り替えるため、洗浄の都度シリコンウエハを移動させる必要がありません。
枚葉式の洗浄装置は構造がシンプルで、バッチ式よりも装置の導入コストが安価です。装置もコンパクトで、スペースが限られる場合でも設置しやすいメリットがあります。
しかし、一度に洗浄できるシリコンウエハは1枚のみです。スループットはバッチ式ほど高くありません。小ロットの製品には向いていますが、大量生産には不向きでしょう。
洗浄面を上にしたウエハを水平方向に回転させながら、そこにノズルから薬液をスプレー状に吹き付けるのが枚葉式洗浄装置の基本構造です。
スプレーは薬液ごとに複数用意されており、処理チャンバーが移動することなく薬液を切り替えることで処理を行います。
スプレーを吹き付ける構造のため、パーティクルの再付着がありません。そのため、バッチ式洗浄装置と比べて薬液の使用量が少なくて済みます。
バッチ式洗浄装置を使用するか、枚葉式にするかは、どんなものを作るかによって変わってきます。製造上で必要な工程によっても変わってくるものです。
例えば、メモリのように大量の汎用品製造を求められるシーンでは、スループット(単位時間あたりの処理能力)の高いバッチ式が適していますが、特定の顧客の専用品を作るケースでは、柔軟性の高い枚葉式のほうが選ばれます。
ただ、多品種少量生産の場合でも、複数の品種に共通して行われるプロセスがあれば、バッチ式を選択するケースもあります。
バッチ式か枚葉式かで迷った場合は、必要なプロセスを確実に実現でき、かつコストを抑えられる洗浄装置を選ぶようにしましょう。
さまざまな薬液を利用してシリコンウエハを洗浄する方法です。半導体の洗浄方法として広く用いられています。主に5つの段階に分かれており、それぞれの段階で異なる薬液を利用します。
シリコンウエハの有機物を除去する洗浄プロセスです。硫酸と過酸化水素を混合した薬液を使用します。なお第1段階で二酸化ケイ素の層が形成されるため、後の段階で取り除く必要があります。
有機物とパーティクルを取り除く洗浄プロセスです。アンモニアと過酸化水素を混ぜた薬液を使用します。薬液に浸すと、パーティクルがシリコンウエハ表面に付着する力が弱まります。さらに超音波で物理的に振動を加えることで、パーティクルの除去を促進します。
シリコンウエハ表面の金属や酸化膜を除去する洗浄プロセスです。フッ素に純水を混ぜ合わせた薬液を使用します。フッ素は酸性度が高いため、そのまま利用するとシリコンウエハを溶かしてしまいます。そのため、表面の対象物のみ除去できるように、純水で薄めて利用する必要があります。
シリコンウエハ表面の残っている金属や酸化物を除去する洗浄プロセスです。塩酸に過酸化水素を混ぜた薬液が使用されます。シリコンウエハを薬液に浸透させることで、表面に酸化膜が再形成され、パーティクルや有機物の付着を抑えられます。
シリコンウエハに残った薬液を純水で洗い落として、乾燥させます。シリコンウエハが乾燥すると、半導体製造におけるRCA洗浄は完了です。
シリコンウエハを洗浄する際、乾燥させた状態で行うことです。洗浄装置に投入される前のシリコンウエハは乾燥していますが、洗浄後も同様に乾燥状態で取り出されます。シリコンウエハに水分が含まれると、空気に触れて酸化が進むためです。
RCA洗浄においても、第5段階として乾燥工程を取り入れています。これにより薬剤を取り除き、シリコンウエハに水分が残らないようにしています。
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