ムーアの法則とは、1965年に米「Electronics」誌でゴードン・ムーア氏が提唱した半導体技術の進歩に関する経験則です。「半導体回路の集積密度は1年半~2年で2倍となる」という内容で、半導体産業のガイドラインになるほどの影響を与えました。半導体企業が競合企業に勝利するための目標として重要視した法則です。
ゴードン・ムーア氏は、アンディ・グローブ氏とともに1968年、半導体最大大手の米インテルを創業した人物で、カリフォルニア工科大学において科学と物理の博士号も取得した専門家です。
米インテルの共同創業者のひとりという大物がいったから、注目されたという単純なものではありません。半導体は小型化のように、法則通りに進化したからです。
「P=2のn/1.5乗(Pは倍率、nは年数)」
これがムーアの公式です。2年後に2.52倍、10年後に101.6倍、20年後に10,321.3倍という結果を導き出します。つまり18ヶ月で同じ面積の集積回路上に、2倍のトランジスタが実装できるようになるのです。
集積率が2倍になると、技術とコスト面にいい影響を与えます。集積率のアップはすなわち半導体の性能向上を意味するからです。たとえば1秒間に100処理できるCPUがあったと仮定。ムーアの法則通りなら、18ヶ月後には、同面積のCPUで200を処理できるようになるわけです。18ヶ月前と同じコストでも、集積率が2倍のトランジスタ素子が作れます。
マーケティングにも影響を与えました。特にPEST分析とデータ量とビックデータ解析です。
PEST分析とは、「政治」「経済」「社会」「技術」を英語にしたときの頭文字を取った言葉です。企業はPESTを無視できないため、マーケティング戦略で実施されています。半導体の性能はIT技術の進歩に直結する重要な技術です。
半導体業界で各社が競合に勝つためには、より魅力的な製品を生み出すために開発を続けなければなりません。たった18ヶ月でコストも性能も2倍になるスピーディーな進歩ですから、開発競争も熾烈を極めます。結果、半導体の技術進歩につながりました。
集められるデータ量も増えました。スマホやモバイル端末やIoTの登場したことも、データの集収量向上につながっています。
ビックデータの解析技術向上も実現しました。ビックデータでは大量のデータを取り扱わなければなりません。当然、コンピューターが高速処理できないと対応できないのです。高速処理には大容量メモリが求められますが、半導体技術の進歩で実現しました。ムーアの法則により開発競争があり半導体が進歩したことが、コンピューターの可能性を広げたのです。
MPU(マイクロプロセッサ)とGPU(Graphics Processing Unit)にも影響を与えました。MPUは半導体チップのことで、演算処理など行う部品です。一般的にはCPUとして知られています。世界で初めて開発に成功したのがインテルです。半導体技術の進化は、MPUの小型化や高速化や低電力につながりました。
GPUもMPUと同じく半導体チップです。役割は画像処理のための演算処理です。3D画像のゲームソフトが開発されることで、GPUの進化も加速しました。ディープラーニングのような、多くのデータ処理が求められるものでも活躍しています。
ムーアの法則による半導体開発競争が、IT全体の技術向上につながりました。実際、人々の生活にも大きな影響を与えています。スマートフォンやパソコンは、いまや誰もが持っている生活必需品になっています。ムーアの法則はコンピューターを、専門家や研究所だけのものから誰もが気軽に活用できるものにしたのです。
出先で誰かと連絡を取るために、公衆電話を探すことはなくなりました。老若男女がインターネットを使って世界中の製品を気軽に買えるようになり、コミュニケーションを通じてつながったのも、ムーアの法則が影響したからです。世界はパソコンやスマホがない生活はありえないほどになりました。
新しい半導体技術も生まれています。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)やAI(人工知能)です。昭和の頃では、映画や漫画や小説のようなフィクションの世界でしかなかった道具や技術が、現実社会で登場しました。
ムーアの法則は、IT企業だけではなく、あらゆる業界に影響を与えて人々の生活を豊かにしました。周囲を少し見ただけでもムーアの法則による恩恵があることに気づきます。
ITの時代に大きな影響を与えてきたムーアの法則ですが「実は終わったのではないか?」という意見も出はじめています。「半導体の性能は18ヶ月で2倍になる」という経験則は、実際の進化によって証明された面がありますが、しかし「ずっと続くのか?」という問いに対し「永遠に続く」という答えは、現実的ではないでしょう。物理的、技術的な部分でいつかは限界の壁が立ち塞がります。
「終わった」という見解について、2021年に通用しなくなるという意見が出ていました。タブレット、スマホのようなモバイル機器にも半導体チップが入っていることから、小型化するというニーズに対し「限界が来た」という意見です。物理的、技術的にチップ面積の最小化と性能をアップさせることができなくなったのだとしたら、確かに、終わったという意見には説得力があります。
一方で「終わっていない」という意見があるのも無視できません。インテルのシリコンエンジニアリング担当上級副社長「ジム・ケラー」氏は真っ向から反論しています。実際、トランジスタをレイヤー化させる、チップの積み重ねを通じて最小化や低消費電力化を実現できるよう取り組んでいるのです。
半導体の最先端技術を紹介する国際学会「2022 IEEE Symposium on VLSI Technology & Circuits」でも、オランダASMLの社長で最高技術責任者「マーティン・ヴァン・デン・ブリンク氏」も「ムーアの法則は2040年まで続く」と予測しました。
終わったのか、終わっていないのかの論争は、実際に時間が経過しないとわからない面が多々あります。ただ、終わっていないなら、IT技術の可能性は広がっているといえるでしょう。
関連ページ
半導体のシリコン基板(ウエハ)などのセンサ・電⼦回路を集約する微⼩電気機械システム(MEMS)をはじめ、⾼精度の電⼦機器の製造⼯程で⽋かせない存在となっている露光装置。量産⽬的、研究開発⽬的に分けておすすめの露光装置を紹介します。