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TSMC、ASMLの次世代EUV露光装置の導入を先送りへ

「極めて高価」なHigh-NA EUVを当面見送り、既存EUVでA13・A12世代の量産を目指す

台湾積体電路製造(TSMC)は、オランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングが手がける次世代の極端紫外線(EUV)露光装置「高NA(High-NA)EUV」について、少なくとも直近では導入を見送る方針を示しました。対象となる装置は1台あたり3億5000万ユーロ、または約4億ドル規模ともされる極めて高額な最新装置であり、TSMCはコスト効率を重視しながら、既存のEUV露光装置を活用して次世代プロセスの量産を進める考えです。

TSMCの副共同最高執行責任者(COO)であるケビン・ジャン氏は、同社が現行のEUV技術から引き続き恩恵を受けていると説明し、高NA EUVについて「極めて高価だ」と述べました。半導体の微細化競争が2nm以降の領域へ進む中、TSMCは最先端装置をすぐに導入するのではなく、既存設備を最大限に活用する現実的な戦略を選んだ形です。

焦点は「High-NA EUV」:微細化を支える次世代露光装置

High-NA EUVは、現在主流となっているEUV露光装置よりも高い開口数を備え、より微細な回路パターンを描くことができる次世代装置です。半導体の回路線幅がさらに細くなる2nm未満のプロセスでは、露光精度の向上が重要になり、High-NA EUVは将来的な先端半導体製造を支える中核装置になると見られています。

一方で、導入コストは非常に大きな課題です。1台あたり数百億円規模とされる装置価格に加え、工場側のプロセス開発、周辺設備、運用ノウハウの整備にも多額の投資が必要になります。TSMCが導入を急がない背景には、単に装置価格が高いというだけでなく、投資に見合う量産効果をどの時点で得られるかを慎重に見極める必要があることもあります。

2029年量産予定のA13・A12、既存EUVで対応へ

TSMCは米国カリフォルニア州サンタクララで開催したテクノロジーシンポジウムで、2029年に向けた新たな半導体製造プロセスのロードマップを発表しました。その中で、2029年に量産開始を予定する「A13」や「A12」などの新製造ノードについて、High-NA EUVを直ちに採用するのではなく、既存のEUV装置を活用して対応する方針を示しました。

特にA13は、AI向けの高性能チップなどで採用される可能性が高いと見られています。また、2028年に生産開始予定の「N2U」もロードマップに加えられており、スマートフォン、ノートパソコン、AI分野向けに、性能とコストのバランスを取った選択肢として位置付けられています。TSMCは、既存EUVを使いこなしながら微細化を進める技術力こそが、自社の競争優位性につながると見ているようです。

競合インテルは早期導入へ、分かれる最先端プロセス戦略

TSMCの慎重姿勢とは対照的に、米インテルはASMLのHigh-NA EUV装置を早期に導入し、自社の次世代プロセスに適用する方針を進めています。インテルにとってHigh-NA EUVは、先端プロセス競争でTSMCに追いつき、技術的な優位性を取り戻すための重要な武器と位置付けられています。

この違いは、両社の事業モデルと投資判断の差を反映しています。TSMCは世界最大級のファウンドリとして、多数の顧客に対して安定した量産能力とコスト競争力を提供する必要があります。一方、インテルは自社製品とファウンドリ事業の立て直しを進めており、最先端装置の早期導入によって技術力を示す狙いがあります。2nm以降の半導体製造では、最先端装置を早く導入することだけが正解ではなく、コスト、歩留まり、量産安定性を含めた総合力が問われる段階に入っています。

ASMLにとっては逆風、最大顧客TSMCの判断が市場に影響

ASMLにとって、TSMCは極めて重要な顧客です。ブルームバーグのサプライチェーンデータによると、TSMCはASMLの最大顧客とされています。そのため、TSMCがHigh-NA EUVの導入を先送りする判断は、ASMLの成長シナリオに対する市場の見方にも影響を与えます。

ASMLは2030年に最大600億ユーロの売上高を目指しており、High-NA EUV装置が2027年から2028年にかけて量産段階へ入ることを見込んでいます。しかし、最大顧客であるTSMCが導入時期を慎重に見極める姿勢を示したことで、投資家の間ではHigh-NA EUVの普及ペースに対する懸念が広がりました。報道を受け、米市場に上場するASMLの米預託証券(ADR)は一時大きく下落し、終値でも軟調な動きとなりました。

TSMCの狙いは「微細化」と「コスト抑制」の両立

AIブームにより、高性能半導体への需要は世界的に急拡大しています。生成AI、データセンター、スマートフォン、PC、自動車など、幅広い分野でより高性能かつ省電力なチップが求められる中、TSMCには最先端プロセスを安定的に供給し続ける役割が期待されています。

ただし、製造装置の高額化は、半導体の生産コストを押し上げる大きな要因です。High-NA EUVを早期に導入すれば、技術的な先進性を示すことはできますが、その投資負担は最終的にチップ設計企業や顧客企業に転嫁される可能性があります。TSMCが既存EUVを活用する道を選んだことは、最先端チップの価格上昇を抑えながら、量産性と供給安定性を維持するための判断といえます。

既存EUVを使い切る技術力が競争力に

TSMCの今回の判断は、単なる設備投資の先送りではありません。むしろ、既存のEUV露光装置を高度に使いこなし、プロセス技術や設計技術、マルチパターニングなどの工夫によって微細化を継続するという、同社の技術力を前提にした戦略です。

半導体製造では、最先端装置を導入すれば自動的に優位に立てるわけではありません。装置性能を最大限に引き出すプロセス開発、歩留まり改善、量産立ち上げのスピード、顧客ごとの設計最適化が不可欠です。TSMCはこれまで、先端プロセスの量産能力で業界をリードしてきました。今回も、装置そのものの刷新よりも、既存技術の成熟度と量産実績を重視したと見ることができます。

結論:High-NA EUV時代の到来は「導入時期」の見極めが鍵に

TSMCがASMLのHigh-NA EUV導入を当面見送る方針を示したことは、半導体業界における次世代装置の普及が、単純な技術競争だけでは決まらないことを浮き彫りにしました。2nm以降の微細化ではHigh-NA EUVが重要な役割を担うと見られる一方で、その導入には巨額の投資と量産面での慎重な判断が求められます。

TSMCは、2029年に向けたA13やA12などの新製造ノードにおいて、既存EUVを活用しながらコスト効率と技術進化を両立させる道を選びました。競合インテルがHigh-NA EUVの早期導入で巻き返しを狙う中、TSMCは量産安定性と顧客へのコストメリットを重視する姿勢を鮮明にしています。AI時代の半導体競争では、最先端装置を「いつ導入するか」そのものが、各社の競争力を左右する重要な経営判断となりそうです。

参照元: TBS CROSS DIG with Bloomberg「TSMC、ASMLの次世代EUV露光装置『極めて高価』-導入を先送り」2026年4月23日(https://newsdig.tbs.co.jp/articles/withbloomberg/2618878

参照元: ビジネス+IT「TSMCが次世代半導体製造でASMLの最新露光装置を見送りへ」2026年4月24日(https://www.sbbit.jp/article/st/185055