露光の条件を決めるとき、最初に決めるのが「どれだけ光を当てるか」です。これを露光量、あるいはドーズと呼びます。
日焼けにたとえるとわかりやすいかもしれません。同じ日差しでも、10分だけ浴びるのか1時間浴びるのかで焼け方は変わります。曇りの日に1時間なのか、真夏の炎天下で10分なのかでも変わります。露光量とは「光の強さ×当てた時間」で決まる、日焼けの総量のようなものです。
この量を上げれば現像残りやパターンの剥がれは減りますが、線の太さが狂い、露光時間が伸びて生産スピードが落ちます。下げれば速く作れますが、不良が増えます。つまり露光量の設定は、品質と生産性のどこで折り合いをつけるかという判断そのものです。この記事では、露光量の基本から、レジストとの関係、余裕の取り方、生産スピードとのバランスまでを見ていきます。
露光量は、レジストに与えた光のエネルギーの合計です。単位は mJ/cm²(ミリジュール毎平方センチメートル)で、次のように決まります。
露光量 = 光の強さ(照度) × 当てた時間
たとえば光の強さが22mW/cm²(1cm²あたりの光の強さ)の装置なら、1秒当てるごとに約22mJ/cm²ぶんの露光量になります。コンベアで基板を流すタイプの装置なら、搬送速度を遅くするほど露光量が増えることになります。
ただし、ここに落とし穴があります。同じ露光量でも「強い光を短時間」と「弱い光を長時間」は必ずしも同じ結果になりません。とくに厚いレジストでは、光が中を進む間の反応の進み方が変わるためです。データから直接描くタイプの装置は、光の点を高速で走らせて描くため1か所に光が当たる時間が短く、そのぶん強い光が必要になります。
レジストが反応する光の色(波長)は、材料ごとに決まっています。露光でよく使われるのは、i線(365nm)、h線(405nm)、g線(436nm)といった紫外線です。
だから光の量を測るときも、その色に合わせた測定器で測る必要があります。当てた光の量を積み上げて測る計測器(積算光量計)は、受光部を交換することで複数の波長に対応します。ここで見落とされがちなのが、測定器そのものも狂うということです。メーカーは半年に1回の校正を推奨しています。「測っているから大丈夫」ではなく「測る道具が正しいか」まで見る必要があります。
適正な露光量を決めるのは装置ではなくレジストです。レジストには次のような性質があります。
一般的な材料では、膜が完全に抜けきるまでに必要な光の量が、反応が始まる量の2〜3倍程度という水準です。この「反応する量」と「抜けきる量」の差が小さいほど、シャープなパターンが出ます。逆に差が大きい材料は、条件を追い込んでも輪郭がぼやけます。
近年は、光でできた反応のもとが連鎖的に反応を広げるタイプのレジストが使われ、少ない光量でも十分に反応するようになりました。
もう一点、ポジ型(光が当たった部分が溶ける)とネガ型(光が当たった部分が残る)で、断面の出方が違います。ポジ型は表面側が現像液に長くさらされるため、側壁を垂直にしにくくなります。一方ネガ型は光が当たった部分が固まるため、表面側がより強く固まって溶け出しにくく、結果として壁が立ちやすくなります。
同じレジストでも、厚みが変われば必要な露光量は大きく変わります。厚さ1〜2µm程度なら全体がほぼ均一に反応しますが、5µmを超えると必要な量が急に増えていきます。
なぜ厚くても光が届くのかというと、光を吸っていた成分が反応して使い切られ、露光が進むにつれてレジスト自身が「光を通しやすく」変化していくためです。表面が反応し終わると光が奥へ進めるようになり、少しずつ深部まで届きます。逆にいえば、厚いレジストは「表面から順番に反応させていく」ため時間がかかるということです。
実際の材料データを並べると、増え方がわかります。
| 材料・条件 | レジストの厚み | 必要な露光量 |
|---|---|---|
| 一般的なポジレジスト(実測例) | 約2.9µm | 約46mJ/cm² |
| 厚膜ネガレジスト(実測例) | 約7.7µm | 約83mJ/cm² |
| 厚膜用レジスト(SU-8 3002) | 2〜4µm | 120〜200mJ/cm² |
| ネガ型ドライフィルム | 56µm | 85mJ/cm² |
| 同上 | 75µm | 130mJ/cm² |
| 同上 | 112µm | 270mJ/cm² |
| 厚膜ポジレジスト(300mmウェーハでの評価) | 100µm | 5,500mJ/cm² |
注目したいのは、厚みに比例するのではなく、比例以上のペースで増えていく点です。ネガ型ドライフィルムでは厚みが2倍(56µm→112µm)になると、露光量は3倍強に増えています。表の一番下、100µmの厚膜になると桁がひとつ変わります。材料によっては、厚みが数µmを超えたところで1,000mJ/cm²を超えるものもあります(厚膜用に感度を高めた材料はこれを抑える設計になっています)。光の量が増えれば、そのまま1枚あたりの露光時間が伸びます。
ちなみに、一度に大量の光を入れすぎると、マスクとレジストの境目が熱を持ち、表面だけが固まってしまうことがあります。そのため厚膜用レジストでは「一定量を超えたら数回に分けて露光する」ことが推奨されています。厚いレジストと段差の両方を扱うMEMS向けの工程では、この特性がそのまま装置要件になります。
材料メーカー側も感度の改善を進めています。ある開発事例では、厚み25µmで15µm幅のパターンを25mJ/cm²で出せるようになったと報告されています。従来のマスクを押し当てる方式では100〜120mJ/cm²を要していたので、大幅な短縮です。
ここで重要なのは、装置の光の色と材料が反応する色が合っていなければ、光の量を増やしても効率は上がらないことです。従来のレジストはh線(405nm)に対する感度がi線(365nm)の5分の1程度しかなく、h線をよく吸収する材料への置き換えが進められてきました。装置と材料はセットで考える必要があります。
やや紛らわしいのは、これらの症状が現像条件の問題とよく似ていることです。たとえば溶け残りの原因には「光が足りない」だけでなく「現像液に溶けたものが再び付着した」「基板との密着が悪い」といった可能性もあります。露光量だけを動かしても解決しない不良がある、と覚えておくと切り分けが早くなります。
なお、パターンの頭が「T」の字に膨らむ不良には2種類の原因があります。ひとつは上に書いた「光を入れすぎて熱を持った」ケース、もうひとつは空気中のアンモニアなどの汚れが反応を打ち消したケースです。症状は同じでも対策はまったく違うので、切り分けが必要です。
露光量は、ぴったりの1点を探すものではありません。どれだけ振れても規格に収まるかで管理します。この幅を露光余裕度と呼びます。
目安としては、狙いの露光量から±5%ずれても寸法が規格に収まる(幅として10%の余裕がある)のが一般的な必要水準です。ここに余裕がないと、材料のロット差や光源のわずかな変化で不良が出ます。
そしてこの余裕は、ピントの余裕(焦点深度)と食い合います。実際のシミュレーション例を見ると、関係がはっきりします。
| 光の量の余裕 | そのとき使えるピントの余裕 |
|---|---|
| 5% | 1.75µm |
| 10% | 1.57µm |
| 15% | 1.35µm |
光の量の余裕を厚く取るほど、ピントの余裕は削られていきます。だからカタログのピント余裕を比べるときは「どれだけの光量余裕を確保した条件での数字か」を必ず確認してください。同じ装置でも、条件の書き方ひとつで数字が変わります。
実務では、ピントと光の量を格子状に変えた試し露光を行い、結果をマップにします。判定の基準は、たとえば次のようなものです。
この3つをすべて満たす領域が「うまくいく条件の範囲」です。その範囲の中で、光の量の幅とピントの幅をどう配分するかを決めます。
ひとつ注意点として、同じ試験データでも、範囲の読み取り方によって数字が変わります。四角で読むか楕円で読むかで、ピント余裕が0.88µmと1.40µmに分かれた報告例もあります。数字を比べるときは、算出方法までそろえて確認してください。
そして、新しいレジストや新しいプロセスを立ち上げるとき、そして露光装置を変えたあとは、必ず光の量を段階的に振った試験をやり直すことが推奨されています。
光の量を増やすと露光時間が伸び、生産スピードが落ちます。どのくらい効くのか、簡単な例で見てみましょう。
ウェーハ1枚を100か所に分けて露光する装置で、1か所あたり位置合わせに1秒・露光に2秒かかるとします。ウェーハの出し入れが2秒だとすると、1枚あたりの時間は約302秒。1時間あたり約12枚です。
ここで注目したいのは、302秒のうち300秒が「1か所ずつの作業」で占められている点です。つまり1か所あたりの露光時間が1秒違うだけで、1枚あたり100秒の差になります。露光する箇所が多い工程では、光の量の設定が生産性を直撃します。
ならば少ない光量で反応する材料を使えばいいと考えたくなりますが、ここにはトレードオフがあります。
細かさ・輪郭のなめらかさ・感度の3つは、同時に良くできません。露光量を減らすと、パターンの輪郭がガタガタになりやすくなります。当てる光の粒が少なくなるほど「たまたま多く当たった場所・少なく当たった場所」のムラが目立つようになるためです。雨粒が少ないうちは地面の濡れ方がまばらで、たくさん降れば均一になるのと同じ理屈です。
この効果が最も強く出るのは、EUVのように光の粒そのものが少ない露光です。紫外線を使う一般的な露光では、材料自体のムラのほうが先に効いてきます。ただし「感度を上げれば必ず何かを失う」という関係は共通です。
そのため、露光量を削って生産性を稼ぐ判断は、輪郭の荒れという品質の代償と天秤にかける必要があります。
設定値が正しくても、実際に出ている光が変わってしまえば結果は振れます。
水銀ランプでは、電極から飛んだ物質が管の内側に付着して、紫外線の通りを悪くしていきます。ウシオ電機の実測データでは、従来型の電極を使ったランプが2,000時間の使用で当初の90%まで落ちる一方、改良型の電極では2,000時間でも当初の100%を保ったと報告されています。同じ「水銀ランプ」でも、劣化の仕方は構造で変わります。
また、点灯してから光が安定するまでに15〜30分ほどかかる場合があります。この立ち上げ時間は生産に使えません。
光源の寿命の目安としては、UVランプが約3,000時間に対してUV-LEDは約20,000時間という比較が示されています(使用条件により変わります)。UV-LEDは点けたり消したりを繰り返しても寿命に響きにくく、ランプ交換にともなう光量の段差や段取り時間も発生しません。「同じ条件で作り続けられる」という点で管理が楽になります。
照射面の光の強さのムラは、ふつう±5%以内に収めることが求められます。またシャッターの開閉には0.1秒程度の時間がかかります。露光時間が数秒しかない工程では、この0.1秒そのものが誤差になります。
露光量の管理は、次のような組み立てになります。
「前回の結果を見て次回の条件を直す」という自動補正の仕組みは、いまや露光工程では前提になっています。
露光量(ドーズ)は「光の強さ×当てた時間」で決まる、日焼けの総量のような指標です。必要な量はレジストの性質と厚みで決まり、厚み約2.9µmで約46mJ/cm²、100µmの厚膜では5,500mJ/cm²と、条件次第で100倍以上変わります。しかも厚みに比例するのではなく、比例以上のペースで増えていきます。
光が足りなければ現像残りや剥がれ、多すぎれば細かいパターンが出ない・表面が固まるといった不良が出ます。そのため管理すべきは「ぴったりの1点」ではなく「どれだけ振れても大丈夫か」という余裕の幅で、一般に10%程度が必要とされます。この余裕はピントの余裕と食い合うため、試し露光で範囲を実測して、どちらにどれだけ配分するかを決めるのが実務の要点です。
生産性の面では、1か所あたりの露光時間が箇所数ぶん積み上がるため、1秒の差が大きく響きます。ただし光の量を削れば輪郭が荒れるので、単純な短縮はできません。現実的な打ち手は、材料が反応する光の色と装置の光源を合わせること、そして光の量が変化しにくい光源と定期校正で「同じ条件で作り続けられる状態」を作ることです。
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