スマートフォンの傾きを検知するセンサ、車のエアバッグを開くセンサ、インクジェットプリンタのヘッド。これらはMEMS(メムス)と呼ばれる、シリコンの板の上に作られた「とても小さな機械」です。
MEMSは半導体と同じ製造技術で作られます。ただし露光装置に求められる性能は、半導体の前工程(ウェーハに回路を作り込むまでの工程)とはかなり違う方向を向いています。半導体向けの発想でそのまま装置を選ぶと、カタログのスペックは満たしているのに量産で不良が出続ける、ということが起こります。
この記事では、MEMSの作り方のなかで露光工程がどこに登場するのか、MEMS特有の「4つのやりにくさ」、そして量産に向いた露光方式の選び方を、順番に見ていきます。
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems/微小電気機械システム)は、半導体の微細加工技術で作られた部品です。動く部品やセンサを、シリコン基板(ウェーハ)の上に作り込んでいます。「半導体チップの上に、目に見えないほど小さな機械が乗っている」とイメージするとわかりやすいでしょう。
代表的な製品は次のようなものです。
ここで大事なのは、この成長が「もっと細かく作る」方向ではなく「もっとたくさん作る」方向で起きていることです。つまりMEMS向けの露光装置に求められるのは、最先端の細さではなく「決まった寸法を安定して大量に出し続ける力」です。
MEMSの作り方は、大きく2つに分かれます。
どちらの方法でも、工程の流れはおおよそ次のようになります。露光が何度も登場することがポイントです。
| 工程 | やっていること | 露光との関係 |
|---|---|---|
| 1. 成膜 | 基板の上に必要な膜を付ける | 膜の段差と反射が、露光条件を左右する |
| 2. レジスト塗布 | 感光する樹脂(レジスト)を塗る | 塗った厚みが、必要な光の量とピント条件を決める |
| 3. 露光 | マスクの形を光でレジストに写す | 線の太さと、層どうしの位置精度がここで決まる |
| 4. 現像・エッチング | 不要なレジストを落とし、下の膜を削る | レジストの形が、そのまま削れる形になる |
| 5. 深掘り加工 | 細くて深い溝や穴を掘る | 厚いレジストで長時間耐える必要がある |
| 6. 犠牲層(下敷きの膜)の除去 | あとで捨てるために敷いておいた膜を溶かし、動く構造を切り離す | これ以降は構造が壊れやすく、扱いに制約が出る |
| 7. 接合・封止 | 別のウェーハを貼り合わせてフタをする | 裏面のパターンとの位置合わせ精度が効く |
| 8. 切り出し・実装 | 1個ずつに切り分けてパッケージする | ― |
深掘り加工では、保護膜を付ける工程と削る工程をごく短い周期で交互に繰り返し、垂直に近い深い穴を掘ります。この長い加工に耐えるには、レジストを厚く塗る必要があります。「レジストが厚い」というのが、MEMS露光のすべての出発点です。
MEMS向けの装置選びでつまずく原因は、だいたいこの4つに集約されます。
平らなウェーハに塗る一般的なレジストの厚みは1µm(1000分の1ミリ)ほどです。ところがMEMSでは、数十µmから100µm以上という厚みを扱います。感覚としては「薄いラップ」に描くのと「消しゴムの厚み」に描くのとの違いです。厚くなるほど必要な光の量が増え、断面の形をきれいに出すのが難しくなります。
MEMSでは、すでに掘った溝や作った構造の上に、次のパターンを重ねていきます。つまり露光する面に凹凸があります。
ここで効いてくるのが焦点深度です。カメラで手前の花にピントを合わせると奥の葉がぼけるのと同じで、露光にも「ピントが合っていると言える範囲」があります。この範囲が狭いと、段差のせいで場所によって線の太さが変わってしまいます。
圧力センサの薄い膜や、貫通穴、封止のフタなど、MEMSではウェーハの表と裏でパターンを合わせる工程が出てきます。表どうしの位置合わせよりも難しく、精度も別に考える必要があります。
薄く削ったウェーハや貼り合わせた基板は反ります。装置側も、ウェーハ厚50µmまで対応するといった仕様を掲げるようになっており、薄くて壊れやすいものをどう運ぶか自体が装置の要件になっています。動く構造を切り離した後のウェーハでは、何かを接触させる工程は使いにくくなります。
MEMSで使われる露光方式は主に5つです。露光装置メーカーのウシオ電機が公開している比較を軸に整理すると、性能の並び方が見えてきます。
| 方式 | どこまで細く描けるか | ピントの余裕 | 段差への強さ | マスクの扱い |
|---|---|---|---|---|
| コンタクト(密着)露光 マスクを押し当てる |
1µm程度 | 実質なし(マスクを密着させるため) | 50µm以上の段差は写せない | 接触するので傷む・汚れる |
| プロキシミティ露光 わずかな隙間をあける |
3〜5µm | 隙間しだい | 段差に弱い | 隙間があるので傷みにくい |
| 等倍投影露光 レンズで等倍に写す |
3〜9µm(機種により2µm台) | 上下±50µm | 100µm程度の段差でも一度に写せる | 触れないので長く使える |
| 縮小投影(i線ステッパー) レンズで縮小して写す |
1µm以下 | 狭い | 平らな面が前提 | 触れないので長く使える |
| マスクレス/DI(ダイレクトイメージ)露光 データから直接描く |
1µm程度 | 自動でピント追従 | データ側で補正できる | マスクが不要 |
この表のなかで、MEMSにとって決定的なのが段差への強さです。ウシオ電機の資料によると、マスクを押し当てる密着露光はおよそ50µm以上の段差になるとパターンを写せなくなります。一方、レンズで写す等倍投影露光は上下±50µmのピント余裕を持ち、100µm程度の段差にも一度でパターンを付けられるとされています。同社は「段差のある露光と裏面合わせに最適なのは等倍投影露光装置」とはっきり書いています。
ここがMEMSの装置選びの核心です。縮小投影ステッパーは1µm以下まで描けますが、その代わりピントの余裕は狭くなります。一方、MEMSが必要とする寸法は多くの場合数µm以上です。つまり使いきれない細かさを手放して、ピントの余裕を買うほうが量産では得になります。
もうひとつの分かれ目はマスクです。密着露光はマスクをレジストに直接押し当てるので、使うほどマスクが傷み、汚れます。押し当てるたびに欠陥が生まれるという指摘もあります。
隙間をあけるプロキシミティ露光なら接触は避けられますが、こんどは光が回り込んで(回折して)細かい形が写らなくなります。触れないようにするほど、細かさを失うという関係です。隙間が一般的な25µm程度あると、描ける細さは数µmが限界になります。
これに対して投影露光は、原版がウェーハに触れません。そのためマスクは長く使える資産になります。年間何万枚と流す量産なら、マスクの交換頻度と接触による不良の差はそのままコストの差になります。
ただし、密着方式がいつでも不利というわけではありません。必要な線の太さが25µm程度で足りる量産では、投影方式は費用に見合わないと判断され、プロキシミティ機が選ばれた例もあります。厚いレジストで深い立体構造を作る用途では、密着方式に固有の強みが残ります。
表と裏を合わせる工程では、表どうしの精度をそのまま当てにしてはいけません。複数メーカーの公開仕様が、そろって同じ傾向を示しています。
| 装置 | 表面の位置合わせ精度 | 裏面(両面)の位置合わせ精度 |
|---|---|---|
| EV Group EVG620 NT | ±0.5µm以内 | ±1.0µm以内(赤外線方式は±2.0µm以内) |
| 密着方式の位置合わせ露光機(MEMS受託工場の公開値) | 1µm | 3µm |
| i線縮小ステッパー(同) | 0.1µm | 0.2µm |
| マスクレス露光装置(公立試験研究機関の公開値) | 0.5µm | 1.0µm |
ざっくり裏面は表面の2〜3倍ずれると見込むのが実務の相場です。設計の段階でこの前提を織り込んでおかないと、装置が実力を出していても不良になってしまいます。
メーカーとの打ち合わせに入る前に、次の項目を数字で押さえておくと、話が早く進みます。
とくに段差の高さとレジストの厚みの組み合わせは、方式そのものを決める前提条件です。ここは必ず実測値で押さえてください。カタログの細さだけを比べても答えは出ません。凹凸のあるウェーハを量産で流すなら、i線を使う投影方式が有力な候補になります。広いピント余裕と量産スピードを両立できるためです。
MEMSの製造では、膜を付ける工程から深掘り加工、構造の切り離し、ウェーハの貼り合わせまで、露光が何度も登場します。求められるのは半導体前工程のような細かさではなく、厚いレジスト・段差・裏面合わせ・反りという条件のなかで、規格内に収め続ける力です。
方式の分かれ目は「段差50µm」にあります。マスクを押し当てる密着露光はこのあたりから写せなくなり、上下±50µmのピント余裕を持つ等倍投影露光が100µm程度の段差までカバーします。縮小ステッパーは細かさで優れるものの、ピントの余裕は狭くなります。MEMSでは、使いきれない細かさを手放してピントの余裕を取るほうが、量産の安定につながります。マスクが傷まず接触キズも出ないという点も、投影方式が量産で選ばれる理由です。
そして裏面の位置合わせは、表の2〜3倍ずれることを前提に設計しておく必要があります。装置検討では、必要な線の太さ・レジストの厚み・段差の高さ・反り量・必要枚数を先に数字にして、できれば自社のウェーハで段差のある試し露光まで見せてもらうのがおすすめです。
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